従業員を雇わずに会社の代表者が1人で事業を行う会社(いわゆる、マイクロ法人)において、稼いだお金を役員報酬、又は配当金のいずれで代表者に還元すべきか、という解説をします。
結論としては、役員報酬で還元する方が税金・社会保険料の負担の控除後で手残りが大きくなります。
設例を使って、シミュレーションしてみましょう。
前提条件
- 売上高が1,000万円の会社
- 役員報酬または配当金として、代表者に800万円を支払う
この条件のもと、役員報酬または配当金の割合に応じた3パターンを想定しました。
法人の損益計算書
単位:万円 | 役員報酬 0% 配当 100% |
役員報酬 50% 配当 50% |
役員報酬 100% 配当 0% |
売上 | 1,000 | 1,000 | 1,000 |
役員報酬 | △ 400 | △ 800 | |
法定福利費 | △ 60 | △ 119 | |
税引前利益 | 1,000 | 540 | 81 |
法人税等 | △ 248 | △ 123 | △ 18 |
当期純利益 | 752 | 416 | 63 |
「法定福利費」というのは、役員報酬にかかる社会保険料のうち、会社が負担するものです(約15%の負担)。
- 配当金の支払いは経費にならない
- 役員報酬・法定福利費の支払いは経費になる
結果として、役員報酬で支払う場合の法人税等の負担が最も少なくなる結果となりました。
個人所得の計算
次に、個人の所得計算は次の通りです。
単位:万円 | 役員報酬 0% 配当 100% |
役員報酬 50% 配当 50% |
役員報酬 100% 配当 0% |
給与手当 | 400 | 800 | |
配当所得 | 800 | 400 | |
合計 | 800 | 800 | 800 |
健康保険料 | △ 100 | △ 24 | △ 47 |
厚生年金保険料 | △ 20 | △ 37 | △ 71 |
所得税/住民税 | △ 45 | △ 77 | △ 91 |
控除額合計 | △ 165 | △ 137 | △ 209 |
手取金額 | 635 | 663 | 591 |
控除額合計の箇所を見て頂きたいのですが、個人においては役員報酬100%にしたケースの負担額が最も大きくなっていますね。
- 配当100%にした場合には、国民健康保険・国民年金に加入しなければならないので社会保険料の負担が大きくなる→社会保険に加入できる役員報酬(7万円程度)は支払っておいた方が良い
- 同じ800万円という所得であっても、配当金には配当控除という税額控除があるため、配当100%の方が、所得税・住民税の負担が低くなる
手取り額が最も大きくなるのは、役員報酬と配当金を50%ずつにしたケースであるという結果になりました。
法人と個人を合算した場合に最もおトクなのは?
マイクロ法人においては、法人と個人を合算したうえで、どの方法が最も税金・社会保険料の負担が小さくなるのか、という検討をする必要があります。
法人と個人の負担を合算したものが以下の通りです。
単位:万円 | 役員報酬 0% 配当 100% |
役員報酬 50% 配当 50% |
役員報酬 100% 配当 0% |
税金(法人) | △ 248 | △ 123 | △ 18 |
税金(個人) | △ 45 | △ 77 | △ 91 |
法定福利費(法人) | △ 60 | △ 119 | |
健康保険料(個人) | △ 100 | △ 24 | △ 47 |
負担額合計 | △ 393 | △ 284 | △ 275 |
負担率 | 39.3% | 28.4% | 27.5% |
結果として、役員報酬100%にした場合が、トータルでみて最も負担額が少なくなることが分かります。
個人の厚生年金保険料は将来の年金を増やす
先ほどの負担額の計算において、個人で負担する厚生年金保険料は含めていません。
仮に含めた場合には、以下の通り結論が変わってきます。
単位:万円 | 役員報酬 0% 配当 100% |
役員報酬 50% 配当 50% |
役員報酬 100% 配当 0% |
税金(法人) | △ 248 | △ 123 | △ 18 |
税金(個人) | △ 45 | △ 77 | △ 91 |
法定福利費(法人) | △ 60 | △ 119 | |
健康保険料(個人) | △ 100 | △ 24 | △ 47 |
厚生年金保険料(個人) | △ 20 | △ 37 | △ 71 |
負担額合計 | △ 413 | △ 321 | △ 346 |
負担率 | 41.3% | 32.1% | 34.6% |
この場合、役員報酬と配当金を50%ずつにしたケースが最も負担率が低くて有利であるという結論になります。
足元の資金繰りを考えた場合には、役員報酬と配当金を50%ずつにしたケースが最も有利という事ができます。
しかし、個人で負担する厚生年金保険料は、将来もらえる年金額を増やす効果があるため、払い損ではない点に留意する必要があります。
将来の年金額は、「報酬比例部分」といって、厚生年金保険料を多く支払った分だけ年金額が多くなるしくみがあります。
年金は受給開始から10年ほど受け取ることで元が取れる(65歳で受給開始とすると、75歳くらい)と言われているので、長期スパンで考えると厚生年金保険料は、「負担率」の計算に含めなくて良いと考えます。
まとめ
以上で見てきた通り、マイクロ法人において、稼いだお金を役員報酬、又は配当金のいずれで代表者に還元すべきかという問いに対しては、「役員報酬で支払うべき」という結論になりました。
短期的には、役員報酬と配当金をミックスさせた還元方法の方が手許に残るキャッシュは大きくなります。しかし、年金受給額も含めて考えると、「役員報酬で支払うべき」という結論になるかと考えます。
ただし、役員報酬の金額は税務上、年度の途中で変更することができないので、その点には注意が必要です。
役員報酬と配当金をミックスさせた方が、役員報酬だけの時より法人の利益は大きくなります。その為、銀行融資との兼ね合いから、利益を残すために役員報酬を少なめに設定しておき、業績が良ければ配当金で還元するという方法もアリかと思います。